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序章 无意义
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作者: Lesthomas   |   ✉ 发送消息   |   2659字  |   免费   |   2024-04-29 09:13:12
足錠が外された両脚の間から手錠で繋がった両手を突っ伏した自身の腹に当てると、冷え切った金属の感触が逃れられない金属製の拘束具の無慈悲さを思い知らす。
 命令に従い、両手の中指と親指でそれぞれの胸の突端を摘まみ、擦る。
 当然であるが、性的興奮など惹起されるわけもなく、屈辱感と羞恥心だけが窓から降り注ぐ昼光に照らされる自身を俯瞰して込み上がる。明白に人間の食べる物ではない吐瀉物様の物体を口に入れ、咀嚼し、嚥下する。吐き気からえずいた声が無音の明るいリビングに霧散する。
 私を思いどおりに操縦できたのだから、さぞや満足げに見ているだろうと目線をふと上げると、星越が全く色の無い目線で見下していた。私の目線に気付いた彼女は表情を歪め、聞こえないような小さい舌打ちをした。

「雰囲気が無いですね。私もね、それは同じ女として、見てれば分かるんですよ。ウスノロは理解できないんですか?私が気色の悪い指示をした意図が」
「ウォゲ、ウゥ……わた……わ」
「誰が声を出せと言いましたか。肯うにせよ、否むにせよ、人類には首を振る方向で意思を示すという手段があります。
 良いですか、馬鹿で阿呆でクズで居丈高でプライドが高くて周囲を不快にさせる割に仕事での失敗は隠蔽する倫理観の低い、犬の下痢便にも劣る、生きていても価値の無い、薄汚いどころか課員の憎悪を集めていても気付かない無神経で、同居する湊斗くんの失望すら察知できない割には、結婚すればどうにかなると信じ切っている頭お花畑のタワケなウスノロの為に言語化して当該指示の意図を説明しますよ
 ……これは、食事と性的刺激を結び付ける作業です。今後、湊斗くんにその浅黒い乳首をしゃぶられている砌にも、頭を踏まれながら臭い飯を食った記憶を惹起させる。今、ウスノロの感じている恥辱を想起させるためです。他方、食事の度に性的[X_X]を想起させるための、初歩的な”調教”です」

 反射的に言い返そうとして、最早詮無い事という諦観が全身に充満し、目線を目の前の残飯じみた「昼食」に落とした。
 目線を外す直前になって、星越の満足げな微笑が見えた。気がする。

「怠慢が骨に染み付いてんな、ウスノロ。食いながら話を聞けよ」

 上空、星越の方向からピシ、と鞭が掌で受け止められたと思しき音が鳴る。
 身体が震えあがり、フローリングに拡がった汚れと同等の食品の成れの果てを這いずって、口に入れる。胸の先端を指で必死に触るものの、当たり前のように何の感情も湧き上がらない。恐怖、屈辱、そして隠蔽し得ぬ悲しさ。私は滂沱の涙を流しながら床に落ちた臭い何かを口に入れて胃に入れている。舌先を使い床に着いた半固形物を掻き集め、唇を用いて啜り上げると、下品な音が鳴り響いた。

「泣く暇があれば篤と飼い主たる私の高説を賜りなさい。はい、復唱」

 一瞬の間があって、露出した太腿に鞭が入った。激痛からまたぞろ目線を反射的に上げると、再度鞭を振りかぶる温度の無い目線が私を射貫き、刹那、顔に激痛が走る。

「復唱」
「ほしごえ……さま、の。高説をたわ、わ、まります……」

 もう一度、今度は臀部に激痛が走る。

「業務の基本は入社当初、教育主任であったウスノロから口酸っぱく教えられた記憶がありますがね。我等をシゴいて、満足して、湊斗くんのモノはその口で満足にシゴけずに股座突かれて喘いでいた口で、偉そうに社会人論を放ってた、その口で」

 星越が急に言葉を止めたので、手錠で拘束された全身を縮こまらせて構えた。
 数拍の間をおいて、私の眼前の「昼食」が星越の裸足で踏み抜かれた音が、床に這いつくばった私の耳に鳴り響いた。
 怖々と目線を上げると、満面の笑みの星越の顔がそこにあった。窓から差し込む晴天の昼光が描き出す陰影に、星越の本性を浮かび上がらせるようで、恐怖が弥増して叫びたくなる。しかし、「ウスノロ」として身体に刻み込まれたのかもしれない。こんな短期間で。

感じているフリをして色欲で頭が空っぽになった男の為に雰囲気出すのは女の仕事だろうが。そんな初歩的なことも出来ないんなら飯なんか食うな、ボケが」

 星越の足音が遠ざかり、幾許か心が軽くなった気がする。目を閉じて、深呼吸すると、納豆交じりの甘いカフェオレの匂いが鼻腔を突き、えずいた。
 フローリングに貼り付いた耳と頬にゴロゴロと重低音が伝わる。ハッとして目を開け、音のする方に顔を向けると会社で重いものを運搬する際に使用するような手押し台車を押す小柄な星越の姿が見えた。
 台車の上には  ――――箱?

「餌を食べなくても宜しいとは申しましたが、乳首から手を放せとは言っていない筈ですが」

 疑問を抱く前に、詰問口調を浴びせられ、目を伏せて急いで服の下に入れた手を胸の突端に戻した。

「本当は車長持が良かったんですけど、蚤の市で安かったので普通の長持です」

 ナガモチ、という単語が脳の上を滑って通過していく。要するに、私をこの箱に入れるつもりというところまでは容易に想像できる。

「ナガモチ、ウスノロには難しい単語だったかな?『♪箪笥長持花一匁』の長持、錠の付いた大型の長櫃です。棹を差して二名で担げるようになっているのが特徴ですね」

 星越が民謡歌手のように朗々と節を付けて歌う声に、別人が突然現れたかのような恐怖を感じた。
 いや、どうでも良い、私は暗いところや狭いところが苦手なのだ。先程された目隠しですら一般人の数倍、いや数十倍の恐怖を感じていた。寝る時だって常夜灯を欠かしたことは無い。
 エレベーター程度なら何も思わないが、健康診断でMRIに入ったとき暴れそうになったくらい狭いところも怖い。

「では、お入りください。気密性は然程でもありませんので、[X_X]の危険は無いと思料されます」

 よいしょ、と言いつつそれなりの重量がありそうな蓋を開くと、留め金で固定した。
 使い込まれた鈍い黒に近い茶色の直方体。
  骸櫃ひつぎとしか思えない箱の中に、自ら身体を沈めるのか。逡巡する前に体が動いた。

「あら偉い。もっと抵抗するのだと思ってました。閉所恐怖症を克服するほどに私が恐いのですね。実に痛快だ……加点1、累計8。評価して差し上げましょう、いひひ。蓋に『オセイ』なんて刻まないで下さいよ」
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